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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)1430号 判決

よつて控訴人主張の前記(一)の(イ)、(ロ)、(ハ)、(二)及び(三)の各抗弁について順次審究する。

(一)の(イ)。支店長という名称は支店の営業の主任者であることを示すものと解すべきであるから、支店長は商法第四十二条第一項の規定によつて、裁判上の行為は別として、支店に置かれた支配人と同一の権限を有するものとみなされ、同法第三十八条第一項の規定により営業主に代つてその営業に関する一切の行為をなす権限を有するものであるから、銀行の支店長といえども、支店における取引に関しては、その銀行のために手形を振出す権限を有するものというべきであり、いやしくも支店長名義を冠して振出された手形は、反証なき限りその当該の支店の取引に関して振出されたものと推認するのが当然である。そして本件ではかく確認できない反証は、何もないから、この(イ)の抗弁に関する限り本件内野支店長の手形振出行為の効力が控訴人に及ばずということはできない。

(一)の(ロ)。当審証人藤田耕二の証言及び同証人の証言によつてその成立の認められる乙第十五号証の一ないし四によれば、控訴銀行は昭和二十四年二月中他の地方銀行五十四行との間に、銀行の手形保証は爾後銀行の代表者である頭取の名をもつてすることに申合せ、その旨訴外第一銀行はじめ地方銀行以外の銀行に通知したことは、これを認めうるけれども、右申合せは銀行のなす手形振出については何ら言及するところがないのみならず、仮りにこれに当然手形振出行為が包含せられるものとしても、それは前段に説示した法律の定める支店長ないし支配人の権限を内部的に制限するもので商法第四十二条第二項により悪意の相手方に対し主張し得るにとどまるものであるところ、本件手形の授受について被控訴人の代理権を有する訴外野沢浩において、右手形授受の際控訴銀行と他の地方銀行との間に前述のような申合せのあつたことないしは、控訴銀行において手形振出の権限を有するのはその代表者である頭取にかぎられ、その他の役職員には手形振出の権限がなく、したがつて控訴銀行内野支店長畠山芳蔵にも、本件手形振出の権限のなかつたことを知つていたという事実は、控訴人提出援用の全証拠によつてもこれを認めることができないから、右抗弁も理由がない。

(一)の(ハ)。被控訴人が昭和二十四年八月十日、訴外株式会社第一銀行(大崎支店)に対し本件手形を裏書し、さらにその支払拒絶証書作成期間経過後である同年十月十日に、右訴外銀行から戻裏書を受けたことは、被控訴人の認めて争わないところであつて、前掲甲第一号証の表面の記載、当審証人橋本勇の証言(一部)及び右証人の証言によつてその成立の認められる右甲第一号証の表面の記載を総合すれば、訴外第一銀行は被控訴人から本件手形を商業手形として裏書を受けたもの、すなわちいわゆる譲渡裏書を受けたものであつて、被控訴人主張のように隠れたる取立委任裏書でないことが認められる。右証人橋本勇の証言中この認定に牴触する部分はこれを信用しがたく、他に該認定を左右するに足りる証拠はない。本来手形の裏書によつて被裏書人は、手形より生ずる一切の権利を取得するものであつて、ただその債務者の権利を害することを知りながら手形を取得したいわゆる悪意の取得者は、その前者に対する人的抗弁をもつて債務に対抗せられるに過ぎない。したがつて訴外第一銀行が、控訴銀行の畠山支店長において本件手形を振出す権限がないことを知つていたとしても、控訴人は右第一銀行の前者である被控訴人に対して主張した右と同趣旨の抗弁が、前述のように理由がないのであるから、第一銀行は右裏書によつて本件手形より生ずる一切の権利を取得したものというべきであつて、銀行が右手形上の権利を取得しないことを前提とする右抗弁も理由がない。

(三)。被控訴人の本訴請求は本件手形のみによつて手形金の支払を求めるものであつて、右手形が控訴人の被控訴人に対する靴下買受代金の支払のために振出されたものであることはあえて主張しないところである。(記録六五六丁表冒頭参照)もつとも手形の授受については、その当事者間にはこれをなすに至つた原因関係があること勿論であるが、しかし手形上の権利義務は手形行為のみによつて発生する無因のものであつて、その原因関係の何たるやは手形上の請求をなす原告(本件では被控訴人)においてこれを主張し立証する訴訟手続上の責任を有するものでない。もし請求を受けた手形債務者において原因の欠缺または違法等を主張してその手形金の支払を拒まんとするならば手形上の権利者に対する人的抗弁としてこれを主張しかつ立証しなければならない。しかるに控訴人は、被控訴人において本件手形が靴下売買代金の支払のために振出されたと主張するけれども、かかる靴下を買受けたことがないというのみで、自ら具体的に事実を明示して本件手形が原因を欠缺している旨の人的抗弁を主張しないのであるから、(この点は当裁判所が釈明を求めても具体的に主張しない)この(三)の点は具体的な事実の判断に入るかぎりではない。

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